女子ラグビーが熱い。
男性と同じルールで80分を戦い抜く。男子に負けずワールドカップも開催されている。そして何よりハートが熱い。
今年の2/9に行われた第6回全国女子選手権決勝は、「RKUラグビー龍ヶ崎グレース」 対 「横河武蔵野アルテミ・スターズ」との戦いになり、7対7という激戦の結果、両チーム優勝ということで幕が下りた。
その様な中で、横河武蔵野アルテミ・スターズの中心選手、女子ラグビーの第一人者の青木蘭(あおきらん)さんに電話でのインタビューを試みた。
女子ラグビー界を取り巻く状況は、プレーする環境、選手育成等まだまだ発展途上中であり、競技人口も4,700人前後と女子サッカーの3万人に大きく水を開けられているのが現状だ。自らの高校、大学の進学で道を切り開き、社会人になった今、女子ラグビープレイヤーとして継続していく事の難しさ、女子ラグビーの課題等、青木蘭さんに話を伺った。
コロナウイルスはスポーツ界にも多大な影響を与えていますが、チーム方はどの様な状況ですか?
「現在は(3月初旬)チーム活動自粛という状況となっており、練習もグランドを使用することが出来ない状況です。あまり外出も出来ない状況なので、選手各自の判断で自主トレを行い、ウエイトトレーニング等をするレベルの練習となってしまっています。今回2週間自粛ということですが、その前の2週間オフがありまして(笑)。計4週間、練習出来ない状況となってしまっています。体力が落ちるのが心配ですね。」
選手同士で連絡を取り合ったりしていますか?
「個人の練習内容に関しては、コーチがプログラムを作成して各自に落とし込んでいます。練習内容は各々違うので、グループラインを使用して、『各自オフはしっかりトレーニングしようね!』という様な励ましあう連絡は取っていますよ。」
女子ラグビー自体が珍しい日本で、どの様にしてラグビーに出会ったのでしょうか?
「一番は父がラグビープレイヤーだったという事。また2人兄がいるのですが、地元の茅ヶ崎市にあるラグビースクールに兄達が通っていたのをきっかけに、私も自然とラグビーを始めるようになりました。実は3歳から始めたのです(笑)。」
他のスポーツをプレーする、例えば女子サッカーとかは考えたことがなかったのですか?
「それが全然ないですねー。他の競技を考えたことは全くなくて、ずっとラグビーを一筋でやっています。」
高校進学のために地元、神奈川から出て島根の高校(石見智翠館高校)に通った経緯は?
「もともとラグビーで高校進学を考えていたのですが、女子ラグビー部がある高校が全国で島根県に一つあるだけでした。男子ラグビー部で男子と一緒にプレーするか、ラグビーを辞めるか、島根に行くかと、選択肢が3つだったのです。
父が試しに島根の高校にパンフレットをお願いしたら、学校の先生が島根からはるばる神奈川の茅ヶ崎まで車で来てくれまして、そしていきなりスカウトされて。熱意にも押され、この学校でプレー出来たら良いな=と。当時、部員は5人しかいない状況でしたが、私たちの代で7人が入部し計12人となりラグビーが出来る環境が整いました。今年で創部7年目となりますが、今でも先生達は日本各地に勧誘に行っています。」
青木さんが島根の高校に通った事で、いろいろな前例を作れたのでは?
「私の後に、神奈川県からも何人かの後輩たちが島根に来てくれました。でも神奈川県のコーチたちからは、島流しにあった、なんて冗談も言われてます(笑)。神奈川は女子ラグビーが盛んな地域ですから。」
その後、慶應大学に入学し、名門の男子ラグビー部の門を叩きましたね。
「なんとか入部しようと思っていろいろ試みたのですが、実際は入部出来ませんでした。女子を受け入れてきた経験もなかったですし、男子を強化している過程で、女子一人の面倒を見ることが出来ないという状況でした。その時期は東京フェニックスというラグビークラブに所属し練習もしていたので、諦めないで絶対いつか慶応大学に女子ラグビーチームを作ろう!思っていました。そして大学3年生時に慶應大学に『アイリス神奈川』というチームを創設することが出来ました。
現在は横河電機に就職し、フルタイムで働きながらプレーしていますね。
「毎日昼間働きながら、夜に練習している状況です。会社の近くに住んでいるので、通勤が短いのは良いです(笑)。実家からは距離が遠いので通えないので。仕事が終わったらすぐにグランドに行き、ラグビーの練習が出来るのは良い環境だと思います。夜の9時ぐらいまで練習して、クラブハウスで夕飯を食べてから帰宅します。基本は自炊で食事を作る様に心掛けていますよ。実は趣味がお弁当作りなのです(笑)。どうやったら卵焼きがうまく焼けるか、とか考えながら楽しんでいます(笑)。シーズンにより朝練もありますが、キックの練習は朝練でやる様にしています。ポジションが司令塔のスタンドオフ(10番)なので、キックとパスのスキルは絶対落としてはいけないので。」
女子の選手登録は珍しく、2重登録(チーム)が可能ですよね?
「女子は選手登録が少ないので、他のチームとの掛け持ちができる様になっています。例えば多くの選手は青山学院大学に通いながら、横河武蔵野アルテミ・スターズでラグビーをしています。所属はどちらにも登録されているのですが、試合はアルテミ・スターズで出場する、というような感じです。女子ラグビーはプレー出来る環境が少ない事が課題だと思いっています。」
女子ラグビーの現状をどう捉えていますか?
「2016年の7人制ラグビーが導入された、リオデジャネイロオリンピックからは競技者数が1,000人ぐらい増えています。小学生の高学年から、中学2年生ぐらいまでの層がちょっとずつ増え来ている状況です。しかし、高校から先の大学、社会人でのプレーする環境が出来ていません。高校進学の際に、ラグビーを続けるのか辞めるのか、という選択が必ず出てきてしまいます。ここでラグビーを辞めてしまう子が非常に多いのが現状です。この裾野をどう広げていけるか。また、大学生から社会人までのカテゴリーの強化をもっとしていかないと、今後の女子ラグビーの未来は厳しいのかな、と思っています。」
今後どの様な活動を目指しますか?
「子供の頃からラグビーが大好きで、一途でやってきたスポーツなので、このラグビーの魅力を選手として伝えていきたいです。フルタイムで働きながらラグビーを一生懸命やっているという姿を、世の中に見せていきたいと思っています。ラグビーをやっている女の子達にも、こういう生き方もあるんだよと示せれば良いですよね。
また、ワールドカップ後のラグビー人気をどう衰退させないで行くか。これには女子ラグビーが、競技人口や人気の普及に関して大事なポイントだと思っています。女子は母親になれますから(笑)。ラグビーをやっていたプレイヤーが母親になった時に、自分達の子供達に『こんな素晴らしいスポーツがあるよ』という事を進める事が出来ますよね。母親としてこのスポーツが素晴らしさを、子供達に伝えていけることが出来れば、自ずと競技人口が増えて行くはずですし、子供達の裾野も広がると思います。」
青木蘭プロフィール
神奈川県茅ヶ崎市出身。15歳で神奈川から島根へ国内留学。石見智翠館高校キャプテンとして全国大会2連覇、大会MVP獲得。慶應義塾大学SFCに進学し、慶應史上初の女子ラグビーチーム創設。現在横河電機でフルタイム働きながら横河武蔵野アルテミ・スターズでスタンドオフとしてプレーしている。