日本の時代劇で侍が刀を使って闘うシーンを目のあたりにしたことはありませんか?もちろん実際に斬りあいをしているのではなく、「殺陣(たて)」と呼ばれる演技により作り出されています。
そんな日本が誇る文化のひとつ「殺陣」の世界に女性でありながら身をおく多加野詩子さん。
東京都多摩地域、東京のほぼ中央に位置する府中市に「芸道殺陣 波濤流 高瀬道場」はありました。
出迎えてくださった詩子さんは細身で笑顔がとても素敵な女性。
「はじめまして!今日はよろしくお願いいたします。」
■美しい女性、それは穏やかにゆっくりススム定まった人
TSUBAKI:「詩子さんのinstagramやブログなど投稿されている記事を拝見いたしました。ブログに
『女性の人生は、山あり谷あり。』
三歩進んで二歩下がるくらいがちょうどよいと実感する。と、ありました。この意味は?」
詩子:「女性は前にちょっと進んだらまずは納得でいいと思うのです。一歩一歩いけたらそれで満足。女性が社会で活躍するのはまだまだ、とても難しいと思ってます。
ましてや、女性が『殺陣師』と名乗ることは本当に難しいのですよ…いや、難しかったかなぁ。(笑)
わたしは『殺陣師』を名乗ることに逡巡していました。つい最近まで、肩書は殺陣講師とか殺陣師範としていました。
闘いの演技なので、男性は女性に刀を当てられることは、気持ちのいいものではないようですから。
TSUBAKI:「今日、初めてお会いしましたがとても芯が強くその中に柔らかさがある『美しい女性』と感じました。詩子さんが思う美しい女性とはどのような女性ですか?
詩子:「わたしが思うのは『定まっている人。揺れない人』です!穏やかにゆっくりすすんで定まっている人。
女性の人生、山あり谷あり。だからこそ、揺れない人が美しい!『12歳大人説』を勝手に言ってます。(笑)
女性って自分の生き方をすでに12歳でわかっているのですよね。だから、美しい人は壁にぶつかったときも考え方の土台が揺れない!」
TSUBAKI:「どういうことでしょうか?」
詩子:「女性は12歳でその魂が大人になっても変わらないと思うのです。なにが正しいかはわからないでしょ?だから、自分が選択したことが正しい。その土台はすでに12歳の時に決まっていると思うんです。」
TSUBAKI:「そのように思われているのなぜですか?」
詩子:「児童部で指導していると感じます。うちの道場の児童部は12歳で卒業です。」
■辞める罪悪感と卒業の達成感
TSUBAKI:「児童部のご指導を12歳で一旦、終了させるのですね。」
詩子:「12歳という節目で自分の意志でどうするか?立ち止まって考えるためにも1度、卒業させてあげないといけないと思っています。
それに、辞めるということは罪悪感がありませんか?どこかで卒業証書を渡したいのです。卒業までいったら達成感。途中で辞めたら挫折感だけが残ってしまうのです。
うちの道場にお子さんを通わせている親御さんは、道場を辞める際、『先生、すみません』ておっしゃいます。なんか悪いな、って感じるのだと思います。(笑)でも、卒業したら達成感。この違いは人生に大きくかかわると思うのです。」
TSUBAKI:「すごく納得です。おなじような経験を自分が子供のころにもしましたし、親になって自分のこどもが習い事をやめるときにも感じました。気づかなかったけど言葉にしていただくと実感します。
詩子:「児童部を設立して20年経ちます。こどもにはこのクラスを通して、これから人生を歩んでいくために重要なことを学べる機会になったらよいと考えています。
皆さんは殺陣を勝つとか負けるの世界だと思っていらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。武術と混同されることが多いのですが、勝ち負けを決めるものではないのですよ。
殺陣は歌舞伎の立ち回りからきている伝統芸能です。
相手をよく見る。相手に合わせる、合わせてもらう。これが基本です。」
TSUBAKI:「道場に親のススメで通っていらっしゃる場合は、どのような目的で通われることが多いのですか?」
詩子:「精神的な成長を求める場合が大多数です。こどもは単純にチャンバラ、いわゆるヒーローになりたくてやってきますね。親御さんは学校で得られない規律を覚えてほしい!と願って門をくぐられます。」
TSUBAKI:「厳しい指導で規律や礼儀、作法を教えているのですね。」
詩子:「発達障害のこどもを抱えている親御さんも多くなっています。発達障害も『個性』です。なにか苦手なことがあるだけ。この道場では、どのお子さんもみんな一緒!だから、わたしはみんな一緒に厳しく接しています。」
TSUBAKI:「12歳までのこどもたちに、なにか他に伝えたいことはありますか?」
詩子:「つけられた名前を大切にしてほしいです。あなたはなんですか?と言われたときに、わたしはいつでもどんな時でも『多加野さんちの詩子さん』と答えます。自分を振り返る時に、自分につけられた『名札』を大切にして振り返ってほしいのです。わたしは結婚して性が変わってからも『多加野さんちの詩子さん』なのですよ。原点ですから。(笑)」
■殺陣とは闘いの『演技』心と技と体 すべてが整うから美しい
詩子:「道場にいってみますか。」
張り詰めた空気の道場に足を踏み入れる。
殺陣の所作から礼節、武士道の精神などを伝えている詩子さん。道場に入ると早速、「刀を持ってみますか?」と。
そして丁寧に刀を持ってかまえる詩子さん
詩子:「殺陣は闘いの演技。ホンモノの武術とは異なり刀は相手に、立てない、当てない!魅せることに特化した武術です。刀を向けられた時はこの上ない緊張感でいっぱいになります。武器であることを実感しますから。殺陣って結構、見た目のかっこよさが重視されがちですが、実はとても美しいものです。その美しさも心と技と体すべてがそろってこそ、滲み出てくるものだと考えています。心が落ち着いていたり、ポジティブな気分であったり。その心持ちが、そのまま姿勢や所作に現れてくるのではないでしょうか。オーラがでるんですよ。(笑)」
TSUBAKI:「刀の握り方って意外と知られていないですよね?」
詩子:「左手も右手も、刀の鍔(つば)からはみ出さないように握ります。はみ出していたら相手に指が切られてしまいますからね。」
TSUBAKI:「簡単そうにみえますが実際に握ってみると難しいです。想像の世界でしかなかったので。」
詩子:「40代でいろんなことを教えてもらった気がします。そこからは『極める』という世界に入りました。BONUR世代の女性は、きっといらないものをそぎ落とし『極める』ことに貪欲になっていくのではないでしょうか?次回はお衣装つけて立ち回りご経験くださいね。」
詩子先生の流れるような動作は心と技と体が整い本当に美しく、優しい笑顔で話されていた数分前とは別人で凛として、どこか優しい空気の流れる美しい女性。心も体もすべてが整うことを実感してみたい、そんな気持ちになる穏やかな楽しい時間をいただきました。
詩子先生、ありがとうございました!
プロフィール:
多加野詩子(たかのうたこ)
殺陣師。 芸道殺陣波濤流高瀬道場 師範。 現本名:高瀬詩子。 夫は殺陣師・映画監督の高瀬将嗣。
主な出演作は「朝日新聞」「日経新聞」「読売新聞」TBSテレビ「総力報道!THE NEWS」、フジテレビ「FNNスピーク」、「エチカの鏡」、雑誌「DIME」、「槇村さとるのハッピー★エイジング」ほか多数。
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