早稲田大学ラグビー部は1918年創部。100年あまり日本のラグビー界を牽引して来ました。日本代表に幾多の選手を送り、ラグビー界の戦術理論に多大な影響を及ぼして来た、名門中の名門です。
今年1月、新国立競技場に5万7千人の観客を集めた、全国大学ラグビー選手権で宿敵明治大学を破り、ついに古豪復活!早稲田大学を11年ぶりの優勝に導いた、早稲田大学ラグビー部監督、相良南海夫(さがら なみお)さんにインタビューしました。
実は、私と相良さんは学生時代から30年来の知人で、今回は久しぶりの再会となりました。知り合った当時、相良さんは早稲田大学のラグビー部員として、2年生からレギュラーで活躍。4年生になった1991年には、主将として大学選手権に出場しましたが、準決勝で大東文化大学に惜しくも敗戦しました。その後、社会人チーム三菱重工相模原で選手・監督として活躍した経歴を持ちます。
― 遅ればせながら、大学選手権優勝おめでとうございます!今回の試合は個人的にも鳥肌が立ちました。まず、どうしてもお聞きしたいことがあります。明治大学に勝利した理由はなんですか?
勝った理由?そうね、1番は学生が主体的に勝ちたい!と本気で思ったからでしょうね。僕自身も勝ちたかった。やるからには「勝ちたい!」です。
― 自らの主体性が彼らを勝利に導いたのでしょうか?
主体的に「本気で勝ちたい」とならないと、勝負には勝てませんからね。「勝たねばならない」という意識では勝てないです。「勝たねばならない」は言葉で言わされているだけですから。
ここ数年、早稲田大学は、関東大学ラグビー対抗戦グループでは勝てていない状況でした。ましてや大学選手権という最高の舞台での優勝はほど遠くにあったので、選手たちは「僕らは『荒ぶる※』をとる!」と言わされているだけで「勝てる」とは実感していませんでした。長く低迷すると、勝つイメージが湧かないですからね。早稲田ラグビー部の伝統と歴史に言わされちゃってるんですね。
※『荒ぶる』とは早稲田大学ラグビー部の第二部歌。大学選手権で優勝したときだけ歌うことが許されていることから『荒ぶるをとる(歌う)=優勝する』という意。
― 監督のどんな言葉掛けや指導で、選手は主体的に勝ちたい!と言うようになったのですか?
「勝つ」ということを周りから言わされないで良い、という状況を理解してもらうことからはじめましたね。あくまで自分達が勝ちたいかどうか?で勝敗が決まるということです。
自分達で考える癖をつけさせる。だから、学生達に「どうしたい?」を常に聞くようにしています。学生達が「勝ちたい!」と言うようになったのは「やるのは君達だ!」と感じてもらえたからだと思っています。
自分の意志で判断して責任を持って行動するのが主体性。一歩一歩でいいのです。一足飛びにはいけませんから。
― そこを改革するのはなかなか大変でしたか?
早稲田が強い時代は、練習内容も休日も選手達自身で決めていました。指導者は週末しかグラウンドに来ない。(笑)
ここ数年は、早稲田大学ラグビー部創部100周年(2018年)に向けて、成果をあげて欲しい、という周囲の期待が非常に強く、指導者側が練習メニューや休日など、学生達を厳しく完全管理し過ぎていたかもしれません。少しやらせて過ぎてしまったかな。ただし、近代的な練習メニューや食事の管理、肉体強化メニューなどでは良い部分もたくさんありましたので、これはこれで否定はしていません。
学生達に「こいつが監督だから期待してないし、失敗してもしょうがない。」と僕は思ってもらえるだろう、という気楽さもありましたので。(笑)
チャレンジさせて、個性を生かして。
早稲田大学は自分でやるラグビーが伝統です。学生達の主体的な運営が早稲田のアイデンティティです。
― 主体性により変化を遂げた学生達でしたが、気持ち以外の部分で重要視していたことはありますか?
誰にでも出来るプレーは、必ずやれと常に発信しています。サポートをさぼらない、ディフェンスのバッキングアップに行く。体格や能力に関係なく、誰にでも出来る事を当たり前にやれ、ということなのです。学生達がこの事を大切だと認識してくれました。
そして、一歩一歩積み重ねていくことを重要視しています。
「今日は、ここまで出来た、次はここまでやろう。」
「昨日はここまで来たから、今日は一歩先に行こう!」
といった感じでやっています。ダメ出しよりも成長部分を見ていく。そして、対戦した相手チームに気付かされた事を生かす。結論を僕が出すことはないかな。道だけ示す、学生達が腹に落ちるためのヒントを引き出す事しかしませんね。むしろ、細かくないです。
― 学生達はそんな監督をどう見てるのでしょうか?
僕、あまりしゃべらないですからね。(笑)どうかな・・・?
普段あまり怒ったりもしませんが、チャレンジしてない姿を見ると怒りますね。
総勢130名のスタッフと選手達。全ての学生達が、諦めてないか?サポートをサボっていないか?などは見逃せません。その部分では怖い人かもしれませんね。(笑)
― 『荒ぶる』を歌わせてあげたかったという気持ちはありました?
僕には『荒ぶる』をとらせたい(歌わせたい)とか、とらせなくちゃ(歌わせなきゃ)は全くないですよ。僕が、ではないですよ。学生達が本気で勝利を目指せるかどうか!
今回は勝って11年ぶりに『荒ぶる』を歌えたという経験が出来ました。勝利した時にしか見えない景色ってありますからね。学生達は実感したのではないかな。成功体験が出来た事は、今後の人生にも「宝」になりますよね。幸せを自分で掴み取った。僕も本当に幸せでした。(微笑み)
今回はとにかく色々な巡り合わせが良かったと実感してます。
― 巡り合わせとはどういうことですか?
明治大学には、直前の対抗戦にて大差で負けました。この敗戦で学生達の気持ちは完全に吹っ切れましたね。頭の中が「打倒明治」一色になりました。追いかける立場でしたからね。僕は、明治が「連覇」という言葉を言い出したからチャンス!と思ったのです。
我々はやり返すマインドだけでよかった、そういう意味で巡り合わせです。
日本一になりたいなら、去年(大学選手権決勝で明治に敗北)を越えよう!明治にもう一度チャレンジしよう、そんな精神が持てたのは巡り合わせでしょう。つまり、最初に負けていたからチャレンジ精神を持つ事が出来た。
数週間前に大敗している相手に勝つ。
勝てないだろうという試合で、「勝つ場所にいる」と空気を感じる。そういう巡り合わせがあることを何度も体験しています。不思議とあるのです。
― そんな体験してみたいです。勝負の世界!さて、今年も新しいメンバーが加入しますね。
早稲田大学にはラグビー推薦はないですから、本当にチャレンジしたいという子は「受験してもらう」し「受験してくる」のです。
一浪しても二浪しても「ワセダでラグビーをやりたい!」って子が入ってくるのですよ。
基本的に早稲田大学は文武両道です!昔以上にそうなんじゃないかな。
― 相良さんは今年監督3年目を迎えますが、この先のご自身の将来設計はありますか?
ラグビーの戦術についてはコーチに任せていて、自分自身は一歩下がっています。全体をまとめる教育的な部分を担っているので、今後はどのようにラグビーと関わっていくかは、今は未知の状況ですね。意外にのんびり人生を送ってるかもしれませんよ。(笑)
― まさか、他の大学の監督とか?
そんなことしたくない・・・ですよ!(即答)
― よかった‼(笑)
今年も新しいカラーのチームになります。昨年は昨年、今年は今年。
― 今年はぜひ、応援に行きます!相良監督、ありがとうございました。