東京・築地の裏路地にある7坪程度の小さなワインショップがある。営業時間は10時~15時で夜営業なし。週末の夜はワインバーになる。知る人ぞ知る人気店「酒美土場(シュヴドゥバ)」だ。
オーナーは岩井穂純さん。岩井さんはJ.S.A.認定ソムリエであり、パリ発祥で国内No.1ワインスクールとして有名なアカデミー・デュヴァンで講師を務めるオレンジワイン界の巨匠。今回はワインのことなら何でも知っている岩井さんに今、流行りのオレンジワインの魅力やマリアージュについて伺いました。
―唐突ですが、オレンジワインを一言で表現するとなんでしょう?
日本の伝統食と相性抜群な『ナチュラルワイン』の新しい分野、でしょうか。
―『ナチュラルワイン』とは、どのようなものですか?
自然に作ったワインのことをナチュラルワインと言います。化学肥料や化学薬品を使わない有機栽培で作られたブドウを原料とし、ブドウの果皮についた天然酵母で自然発酵させた製法のワインです。つまり、「化学物質を使用せず、自然の力を借りながら伝統的な方法で造られたワイン」がナチュラルワインです。
ワインの原料であるブドウは健全であるべきだと私は考えています。健全なブドウはワインを飲む人間の体にとって害がなく良好です。また、ブドウを栽培する土壌にとっても同じことが言えます。ナチュラルワインの良さはこの有機栽培という農法と自然発酵という製法にあると思っています。
―オレンジワインの味の特徴を教えてください。
オレンジワインの原料はシャルドネなど白ワインと同じ白ブドウです。オレンジワインの特徴は白ワインや赤ワイン、ロゼワインにはない特有の渋味があることと旨味が豊かなことです。
この渋味と旨味は収穫した白ブドウの果皮や種子を取り除かず、一緒に「壺」などに入れ、発酵し醸すことで産まれる独特の味です。オレンジワインの深い橙色もこの製法によるものです。果皮にある色素が溶出し、橙色になるのです。
―オレンジワインに引き込まれた理由はなんですか?
オレンジワインの「名前」が世に出始めたのは2004年くらいです。2010年ぐらいから世界中で造られ始めたことがキッカケでブームになってきました。私がオレンジワインに注目したのもその時期です。
料理との相性が新しく、珍しいので非常に面白いと感じたことは大きな理由です。また、料理との合わせ方の幅が広がることも私にとって魅力の一つでした。肉料理や魚料理とは普通に合うのですが「ワインとは合わない」と言われている魚卵と抜群に相性が良いです。魚卵に合うのはオレンジワインだけでしょう。1番のおススメは「ジョージアのオレンジワイン×雲丹」のペアリング。抜群です!へしこなどの珍味系との相性も非常に良いです。オレンジワインにはお茶のような渋味があり、紅茶のカテキンを感じさせます。この渋味が日本の伝統食と合う秘密だと思います。
―ワインと日本の伝統食!新しい発見です。岩井さんにお勧めのペアリングを教えていただきました!
おすすめ1 ムツヴァネ×雲丹
生産者:PHEASANT`S TEARS(フェザンツ・ティアーズ) 国:Georgia(ジョージア) 品種:ムツヴァネ
フェザンツ・ティアーズはアメリカ出身の画家であるジョンと2005年から8世代続くワイン農家のジャラが共同で製造しているオレンジワインです。ジョージアの伝統的な製法で使用される「クヴェヴリ」という臺で発酵・醸造されておりています。特徴は強い酸味とアールグレイという紅茶の渋味です。原料のムツヴァネは皮が厚く重みがあり、しっかりとした白ブドウで、このブドウの皮には味を濃く表現する部分があります。そのためハッキリとした印象のオレンジワインとなっています。
おすすめ2 ピノ・グリ×味噌豆腐
生産者:Craven(クラヴァンワインズ) 国:Republic of South Africa(南アフリカ) 品種:ピノ・グリ
南アフリカのピノ・グリという品種の白ブドウを原料としています。果実だけでなく、果皮と種も一緒に発酵させるのでピノ・グリの皮の赤みがしっかりと出ています。薄赤い色合いで、とても力強い印象です。
このワインは日本食で親しみ深い濃厚な「出汁」の味をしっかりと感じます。渋味成分のタンニンがとても強く効いているので渋味が豊富で、かつ果実の旨味が最高です。
おすすめ3 ヴァルトッラ・ビアンコ×たくあん
生産者:Croci(クローチ) 国:Italy(イタリア) 品種:マルヴァジア・ディ・カンディ
花を連想させるオレンジワインを紹介します。「華やか」という言葉がピッタリで強いラベンダーの香りがします。桃を熟したような果実味が豊かでアールグレイの渋味が特徴のイタリア産オレンジワインです。これほどまでに果皮のエキスをきれいに抽出したワインは滅多にありません。
オレンジワインは1本1本に生産者の思いが入っているから美味しいし、面白いのです。伝統的なナチュラル製法に拘る生産者の思いです。ソムリエがオレンジワインについて勉強した知識をもとに、イメージした味や風味とは良くも悪くも違っていたりする時があります。この、予想外の感じ方をすることも楽しさの1つかもしれません。
また、伝統的なナチュラル製法なのでカラダへの入り方が優しいです。カラダにしみこむ感じがとても心地よい印象です。
―酒美土場さんへ伺うといろいろなオレンジワインに出会えそうですね。
そうですね!こちらはナチュラルワインと日本の伝統食である発酵食を扱う店です。ナチュラルワインに触れた人が自然派の食品にも親しんでもらいたいという思いを表現したお店です。
―オレンジワインが飲めるお店ってまだまだ少ないですよね?
ソムリエ側からすると扱いづらいからではないでしょうか。オレンジワインはまだ新しい分野として確立していないため扱いが難しい。これが大きな理由かもしれません。
今後は新しい分野としてオレンジワインの啓蒙活動をしていきたいと思っています。
酒美土場オーナー 岩井穂純さん
J.S.A.認定ソムリエ 、アカデミー・デュヴァン講師
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