音楽プロデューサー 尾上政幸
音楽プロデューサーとして、数々の映画、TV、アニメ等を手掛け、近年は、中国に活動の幅を広げさらなる躍進を遂げている、尾上政幸さんに話を聞いてみた。
映像音楽
「音楽プロデューサーとして活動していますが、僕の場合、メインの仕事は映像音楽です。映画、テレビの背景には音楽が流れていますが、その音楽を作る仕事です。視聴者は意識して聴きませんが、必ず存在している音楽です。映像音楽はインストルメンタルが多いのですが、ドラマや映画ではサウンドトラックCDとして発売されるので、好きな人は購入したりしますよ。」
NHK
「元々はNHKに所属していました。当時は音響デザインの担当でした。仕事内容は映像以外の音響の総合設計、制作ですね。音楽、自然音、効果音、さらには適任のナレーターの選定等も行うこともありました。
NHKの大相撲中継で、面白い思い出話があります。東京場所の初日に前場所の優勝額の除幕式が行われます。その除幕式のセレモニーにファンファーレを流したいので制作して欲しい、との要望を頂きました。20秒ぐらいのファンファーレを自ら作曲し除幕式で使用して頂いたのですが、なんと30年経った今でも使われています(笑)。知らなかったので、ビックリしました(笑)。
裏話がありまして、このファンファーレを聴いていた、シンクロナイズドスイミングの日本代表コーチ金子正子さんの耳に留まり、「この曲のイメージはシンクロナイズドスイミングの競技に使えないかな」とお話を頂き。当時は小谷実可子さんが活躍していた時代で、シンクロも人気が出てきたところでした。その流れで小谷実可子さん、田中京さんのシンクロ・デュエットの曲を依頼され、僭越ながら作曲させて頂きました。その曲を使ってソウルオリンピックで銅メダルを獲得してくれたので、嬉しかったですね。お礼の絵葉書を頂きました。」
オリンピックのイメージソング
「NHK関係でオリンピックのイメージソングもプロデュースして来ました。ソウルオリンピックの時は、当時まだハードロック色の強かった歌手の浜田麻里さんを起用しました。今の時代は、様々なスポーツの大会のイメージソングを作ることが当たり前になっていますが、当時はまだそういう習慣が業界にありませんでした。NHKのソウルオリンピック関係のすべてのTV番組は、必ず浜田麻里さんの曲「Heart and Soul」をテーマとして使いました。浜田麻里さんを起用したことから、今の各社で使われているイメージソングに繋がっています。当時は珍しかったんでしょうね。思い起こせば、記者会見までやりましたよ。まだ若かったので緊張したのを覚えていますが、翌日の数々のスポーツ紙に記事になったのは嬉しかったです。
4年後のバルセロナの寺田恵子さん、アトランタの大黒摩季さんまで関わりました。」
武漢応援メッセージソング 江城
「今年の3月に、中国の武漢の別名『江城』という曲をリリースしました。コロナウイルスで武漢が一番大変な時に何かやれる事はないかと、上海の仲間が発起人となり、吉田潔さん(日本を代表する作曲家、編曲家)に作曲してもらい作った応援歌です。武漢にいる友人の音楽プロデューサーに協力して頂き、武漢出身の男女二人のデュエットで歌う、武漢応援メッセージソングが完成しました。
とても良い曲です。現地のラジオ局も、この曲を販促するために映像を作ってくれました。YouTubeで観ることができます。
https://m.youtube.com/watch?feature=youtu.be&v=GX3fyb0vwSA
武漢の当局が作った動画もあります。『武漢頑張れ』と武漢が一番厳しかった時の医療現場のドキュメント映像を繋いで作られています。
武漢は四面楚歌でも有名な「楚文化」に発祥の地でもあり、聡明な人材が多く、すごく風光明媚で良い所です。そういう街がコロナウイルスで大変な事になり、僕達も辛くて、何か手助け出来る事はないかと思い、この曲を作りました。」
映画サマーウォーズ
「NHKを退職しフリーになってから、アニメの仕事に携わるようになりました。『時をかける少女』やディズニーの『スティッチ』、日本アカディミー賞最優秀アニメーション作品の『サマーウォーズ』の音楽を携わらせて頂きました。
ディズニーはアメリカでしか制作しないのですが、私の関わった『スティッチ』は唯一日本に委託して制作させた作品です。設定でスティッチは沖縄に住んでます(笑)。スティッチの沖縄版ですね(笑)。
サマーウォーズは、観ている方が多いので、この作品に携わってる話しをすると、すぐにみなさん分かりますね。凄い作品だと思います。主題歌は山下達郎さんに依頼しました。大御所なので、そんな簡単にお願い出来る方ではないのですが、サマーウォーズは気に入って頂けたようです(笑)。試写会の後もご機嫌で、安い居酒屋に一緒に行ってくれましたから(笑)。気分良かったんですかね(笑)。普段から自分にも厳しい人ですし、あそこまでクオリティを担保しようとする人だからこそ、あのクリスマスソングも今でもCMで使われていますし、今聴いても古さを全く感じさせないのでしょうね。そこが凄い所だと思います。」
中国進出
そんな折に、中国からのアニメ制作の話が舞い込んできました。中国の若い監督のデビュー作に、先ほど話に出た、『江城』を作曲した吉田潔さんの曲で制作したいとのオファーがありました。2年以上の期間かけて、かなり苦労して制作しました。中国制作、完全アウェイ!日本人は吉田潔と二人だけだったので(笑)。『大魚海棠』というアニメ映画で、2016年に中国で公開されたらなんと大ヒットとなり、100億円近い興行成績になりました。日本では『赤き大魚の伝説』という日本語タイトルで観ることが出来ますよ。ジブリを彷彿させるような中国伝説を基にしたファンタジックな映画です。泣けます。中国でもこれだけのアニメが制作出来るんだ、という印象を持つとも思います。素敵な映画です。
これを機に吉田潔さんの中国での知名度が一気に上がり、オファーがたくさん来るようになり、上海や深センでコンサートも開催するようになりました。」
今後は
「中国のエンターティメント業界は、IT関連のインフラはとても整っている状況ですが、マンパワーが不足しています。文化大革命の影響で前の世代からのノウハウを受け継いでいません。音楽や映画の制作会社に行くと、もの凄くみんな若い世代です。若いベンチャービジネスのような感じです。エネルギーありますよ。中国はマーケットも人口も凄いですから。とても面白い所です。
中国の仕事を始めて6年以上経ちます。あの国の大きさ、エネルギーを感じるにつれ、もっと深く知りたいという気持ちが強くなって来ました。仲間もたくさん増え来て、人脈も広がり、経済もビックマーケットでビジネスチャンスもたくさんある状況です。もう少し中国で腕試しをしたい気持ちもありますし、少しでも文化の架け橋をできれば良いかなと。中国の方に対して、誤解や偏見がある日本人の方もいらっしゃると思いますが、例えばマナーに関しても、そういう教育を受けていない人もいて、知らないだけで仕方のない事だと思います。そういう事を理解した上で 彼らと付き合うと、優しさや度量の大きさも分かってくるし、そういう内面の文化交流という意味でも、よりお互いを知って深めて行きたいですね。」
尾上政幸(おのえ まさゆき)プロフィール
株式会社 Adagio 代表取締役
音楽プロデューサー、作曲家、サウンドデザイナー
NHK新卒入局、音響デザイン部配属。
ラジオドラマ、TVドラマ、ドキュメンタリーなど幅広い分野で1,000本以上の番組の作曲およびサウンドデザインを担当。
2004年にフリー転向、現在に至る。
主な作品
- 五輪イメージソング・プロデュース / ソウル(浜田麻里)、バルセロナ(寺田恵子)、アトランタ(大黒摩季)
- NHKスペシャル / サウンドデザイン・音楽プロデュース
- 映画「クラッシュ」監督 : 奥山和由
- TVアニメ「ブラグラグーン」「シグルイ」「ディズニー・スティッチ」など
- アニメ映画「時をかける少女」「サマーウォーズ」監督:細田守
- 映画「天のしずく」監督:河邑 厚徳
- 3D映画「大津波11未来への記憶」監督:河邑 厚徳
- 中国アニメ映画「大魚海棠」2016年興行成績第3位 その他多数